イプセイテ

フランス語及びフランス語訳で出版された日記・手帳の目録データベース開発
-平安時代から現在までの出版物全てを網羅して-



(1)研究目的

イプセイテとはオンラインの蔵書目録で あり、特に定期刊行物や日付入りで出版された個人の日記や書物を集め、データベース化することを目的としたプロジェクトである。イプセイテにはヨーロッパ で19世紀後半から出版されはじめた家計簿帳や出版数の少ない航海日誌や企業の経理記録簿なども登録される。これらを年代記だと考慮すると、日記のカテゴ リーにも含められるであろう。伝統的に、また現在でも「日記」という言葉は事実上大きな意味を持ち合わせている。つまり、年代記といえども、現実に起きた 出来事やそれにまつわるエピソードを年代順・日付順に物語るという書物を指し、換言すると書物の内容そのものであるとみなすことができる。なぜなら本来の 人生は順を追って展開されるのであって、物語のように人工的に綿密に計算されて書かれるような順序では進行しないからだ。また家計簿も同様に日記であると いえる。家計簿は日記を書くのと同じ起源を持っている。家計簿は蔵書目録の作成計画において優先されるべきだとみなされてきているが、今までのところ作成 するための調査はなされてきていない。イプセイテとはつまり、出版された全ての個人の書物目録をデータベース化し、オンラインで一般公開するプロジェクト である。個人の書物はエゴ・ドキュメントと同じく西欧では数多く出版されてきているにもかかわらず、エゴ・ドキュメントのみを扱った文献目録は未だ開発さ れていないのが現状である。従って、これら指摘してきた多数の文献情報を整理・管理するには、データベースの作成が最善の方法であると確信している。
イプセイテとは出版目録データベースであり、家計簿が出版された年代以降にフランス語又はフランス語 訳で出版された全ての日記と手帳を検索することを可能にする。このデータベースが完成されれば、あらゆる分野においてあらゆる研究者や教師たちに、もしく は珍しい出版物を探している編集者たちに十分な情報を与えることができる。学術的な計画としてはこのデータベースを数カ国の書物目録にまで拡大し、全ての 時代をカバーしつつ、文献情報を出来るだけ完全に集成しデータベースに統合することである。イプセイテは同時に歴史学者にも役立つものであるといえる。な ぜならある特定の文書は、彼らの分野において他の文書では証明不可能な歴史的事柄を証明することが可能であり、また時に歴史的事実の根源であるとみなされ るからだ。文書は常に個人的経験に依拠したものであるが、例えば航海日誌のように、個人のみならず集団全体としての1つの経験として考察することもでき る。反対に、イプセイテの開発定義に従えば、日記の形式を用いて書かれた書物でもフィクションであれば目録からは除外される。また著者の疑わしい書物や、 著者不明の書物も同様に処理される。Koha(Linuxで使用可能なオープンソフトウエア)の利用により、図書館で使われている検索サービスほどは充実 していないが、ほぼ同じような検索データベースの開発が可能である。イプセイテ・データベースはまず本研究者の母語であるフランス語で作成する。フランス 語はフランス語圏(アフリカ諸国、ベルギー、インド洋の島々、ケベック、スイスなど)などといった世界でも広範囲の場所で理解されることが利点である。外 国語からフランス語に翻訳された日記や手帳に関しては、まず言語区分、次に国名の順でインデックスに表記される。日本語からフランス語に翻訳された書物 は、日本文学における個人の日記の重要性を考慮して、イプセイテ開発の始めの段階でデータに加えることを予定している。また、例えばイプセイテを利用する ことによって「日本語からフランス語に翻訳された日記や手紙がどのくらいあるのか」といった疑問にすばやく答えを得ることが出来る。イプセイテを利用する ことは、比較文学・文化研究の分野において重要な情報をいち早く研究者に提供することが可能となる。

 

(2)研究実施計画

  • イプセイテ・データベース開発に必要なソフトウェア(Koha)をLinux(os)に導入する。Koha(Linux対応の文献目録作成のためのオープンソフトウェア) を利用することによりエゴ・ドキュメント情報登録に必要なインデックスの作成がより簡単となる。
  • データベースに加える2,697件(博士論文第二巻)”Le Jeu de l’autocritique littéraire à l’autofiction, de Proust à Doubrovsky”『自己批判文学から自己フィクションに至るまでの一連の動き-プルーストからドブルフスキーまで-』に記載)の文献紹介を抜粋する。
  • イプセイテ・データベースのホームページ用サイトを立ち上げる。
  • 社会・政治・文学・科学分野などからの協力を得て、データベース利用に必要なインデックス作成を行う。
  • 専門家による英語・日本語のサポートを得て、多言語シソーラスの概要を完成させる。
  • 外国文学のデータを入力。フランス語又は英語・スペイン語に翻訳された日本のエゴ・ドキュメントを最初にデータに加える。また中国などアジアの文学作品に関しても同様に行う。
  • 文献目録に表記されている情報(現代の文献に関しては、フランス国立図書館、NACSIS、OCLCなどを参照する)から必要なものを抜粋してデータに加える。
  • 製本された文献目録16冊から、データベース作成に必要な情報を抜粋して入力する。16冊の中にはフランス語及びフランス語に翻訳された自伝書や手紙・論文など8,000件の情報が記述されている。
  • 図書館(フランス国立図書館・国立国会図書館)に直接出向き、データベース作成に不足している文献情報を得る。
  • データベースを完成させる。新たに出版された日記や手帳などのエゴ・ドキュメントに関しては随時データに加えていく。一年に一度の割合で更新されたデータベースのCD-Rom版を発行する。
  • 日本語からフランス語に翻訳された文献タイトルの抜き刷りを編集する。
  • 日本語から翻訳されたエゴ・ドキュメントのフランス文学における影響について、イプセイテ・データベースの開発目的に基づき、批評と研究論文の執筆をする。
  • ヨーロッパ各地にある大規模図書館に協力を要請する。
  • 現 在世界4箇所に設立されているエゴ・ドキュメントの研究機関(ハワイ大学マノア校(アメリカ)、北京大学(中国)、ラトローブ大学(オーストラリア)、国 立学術研究センター(フランス))がインターネットを通じて相互協力できるよう、イプセイテのホームページサイトをよりよいものへと進化させていく。
  • エゴ・ドキュメントの資料収集・調査ネットワークを拡大し、国際的レベルでのデータベース開発のために連結したプロセッサーを搭載する。
  • 文献のオリジナル文書が付随しているメタ・データとハイパーテキストを用いた考証資料を統合し、イプセイテ・データベースをより利用しやすくする。

 

(3)研究の特色

本 研究で開発するデータベースはオンラインの文献目録として、データベース開発者自身の読書メモや要約文を加えた形で利用者に提供される。利用者はインター ネットを通じて自由にデータベースを閲覧できるというのがイプセイテの特色である。イプセイテは同様に、オンラインで文献検索ができるデータベースのプロ トタイプとして、他のデータベース開発にも貢献する。データベースには複数から成る情報網が張り巡らされている。現在はまだ白紙の状態の目録ではあるが、 手紙や自伝文書を優先させて文献情報を加えていく。イプセイテ・データベースは研究者や専門家、また世界中の読書愛好家にとって必要不可欠なものとなるで あろう。文献資料の記述にも同じく貢献することは間違いないといえる。
イプセイテ・データベースはネット上で閲覧可能であり、非常に入手しにくい文献情報やそれらの紹介文を世界中の研究者や大衆にむけて無料で公開される。 データベース普及の第一段階では、誰でも自由にデータベースにアクセスができるようにする。ある程度十分なデータが入力された後、データベースをCD- Rom版に再編集する。第二段階では、多方面の分野からの研究者たちに閲覧を願い、常時データを更新していく。その中には個人作品の編集者や愛好家と同じ ように歴史分野からの情報も加えられる。フランス語に翻訳された日本文学やアジアの文学作品に関しては抜き刷りが編集される。

 

(4)研究の準備(これまでの経過)

2697 冊分の文献紹介記事は既に出版した。(博士論文第二巻”Le Jeu de l’autocritique littéraire à l’autofiction, de Proust a Doubrovsky”『自己批判文学から自己フィクションに至るまでの一連の動き-プルーストからドブルフスキーまで-』参照のこと。) イプセイテデータベースが統合されれば、20世紀に出版された大部分の文献は、情報豊かなカタログにして一般に提供できることとなる。オランダ・ロッテル ダム、エラムズ大学主催のエゴ・ドキュメントの国際学会で知られているidentity and historyでは、イプセイテプロジェクトを他言語でも同じく開発するべく文献調査のための研究者を収集することが認められた。調査に協力した研究者は イプセイテの初めの受信者及び利用者となる。また国立学術研究センターが開催したエゴ・ドキュメントの国際学会発表の際に出版したイプセイテ・プロジェク ト("Ipséité : inventaire raisonné et indexation des ego-documents en langue française ou traduits en français de la Renaissance au IIIe millénaire"「イプセイテ:ルネッサンス期から3000年までにフランス語及びフランス語訳で出版されたエゴ・ドキュメントの文献目録データ ベース」 <http://egodoc.revues.org/octobre2002/docs/D986212/VS986312.htm> 参照のこと。) の結果、他の国々でもさらに多くの協力者が期待できることとなった。

 

(5)当研究から期待される成果

  イプセイテの開発プロジェクトはEU圏で中心に発展している人文科学の分野に属する。EUにおける人文科学は諸外国との交流、特にアジア各国の学術交流を 目指している。EUの存在は、文献目録データベース・イプセイテの普及を促進するだけでなく、自伝文書に関する考察、とりわけ多言語でのシソーラス作成の ために国際的協力獲得に大いに貢献すると期待できる。現在、この分野に関する研究機関が世界4箇所に設けられている。1つ目はアメリカ・ハワイ大学マノア 校・伝記文学リサーチセンター、2つ目は中国・北京大学・世界自伝文書センター、3つ目はオーストラリア・ラトローブ大学・自伝・伝記研究ユニット、そし て4つ目はフランス・国立学術研究センター・現代文献・写本研究所である。イプセイテの連係網を駆使し、これら4つの研究所がインターネットを通じて相互 協力し合える環境を提供できると確信する。